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Pfeiffer, C., Serino, A., & Blanke, O. (2014). The vestibular system: a spatial reference for bodily self-consciousness. Frontiers in Integrative Neuroscience, 8.


目次
領野の略語、役割
ABSTRACT
自己意識は、主体「the "I"」であることに関わる注目すべき経験である。 自己意識は、通常、身体、とりわけ、重力場における身体の位置や移動などの空間的な次元に紐付けられる。 前庭系システムが三次元空間において頭部の位置と動きを符号化するために、 前庭系皮質の処理は身体的自己意識の空間的側面に関与していると考えられる。 我々は、この論文で、前庭系が一人称視点と自己位置の主観的経験 に与える影響を示す近年のデータをレビューする。 我々は、これらの知見を、前庭系がmental spatial transformation、self-motion perception、body representationに対して影響を与えていることを示すデータと比較し、外部世界に関する身体の種々の空間的表象に対する前提系の役割を示す。 最後に、身体的自己意識の空間的側面を符号化する前提系と他の複数感覚信号を処理する 四つの後部脳領域(TPJ、PIVC、VIP、MST)の役割について考察する。 我々はこれらの皮質領域における前庭系の処理が身体空間から得られる複数感覚の信号を身体が異空間へと接続するうえで重要であるという考え方を提案する。 すなわち、前庭系のシステムは身体的自己意識の空間的側面を神経的に表象するうえで本質的な役割を果たす。
INTRODUCTION
  • 人間の主観的な体験(”I", “the self”)は、一般的に、物理的な身体の空間的な次元に紐づけられる。これは、bodily self-consciouness(訳者注:以下、BSC)と呼ばれるコンセプトによって表現される。BSCは、「私」が特定の場所で特定のボリュームを占めて定位されているという経験(self-location)、私が世界において視空間的な視点を経験しているということ(first-person perspective)、そして、私が総体として身体とともに特定されるような経験(self-identification)からなる。 self-identificationは、自分の体を所有する感覚(ownership)、そして、身体を通して世界に働きかけている感覚(sense of agency)とは区別される (Haggard et al., 2003; Jeannerod, 2003; Blanke and Metzinger, 2009; Blanke, 2012; Metzinger, 2013; Serino et al., 2013) このレビューは、主に、我々がBSCの空間的側面(spatial aspect)と呼ぶものであるself-locationとfirst-person perspectiveについて注目する。これらの現象的な経験は、自己の位置や量的な広がり(volumetric expansion)、そして、視点の基点・方向といった空間変数によって定義される (Blanke and Metzinger, 2009)。 逆に言えば、我々は、BSCの非空間的な側面であるself-identificationやagencyには関心があまりない。これらの現象的な経験は、空間変数の変化に対しても不変である。明晰夢や幽体離脱における身体を抜きとしたself-identificationに関する議論については(Metzinger, 2013)を参照されたい。
  • 実証的研究は、BSCの空間的側面にせよ非空間的側面にせよ、脳における身体に関わる信号によるpre-reflectiveでnon-conceptualな表象から生じるものとしている (Metzinger, 2003; Gallagher, 2005; Blanke and Metzinger, 2009; Ehrsson, 2012)。感覚信号には、視覚・聴覚、あるいは触覚や筋骨格系を含む体性感覚から得られる外受容感覚、そして、心拍、痛覚、温度覚といった内受容感覚が存在する。内受容感覚を基礎とする意識への説明は (Craig, 2002, 2009)を参照されたい。まとめて、これらの実証的研究は、脳が、複数の感覚を統合することで、外的空間における、身体の部分、および全体的な身体、そして身体に関する整合的な空間表象を生成することを示している。
  • しかしながら、BSCに対する前庭系のシステムの役割は、まだあまり知られていない。前庭系のシステムは三次元空間における頭部の位置と動きを符号化し、中枢神経系においては、前庭系信号が、運動、視覚、体性感覚、筋骨格系の信号と強く統合されていくため、中枢系の前庭系の処理はBSCの空間的側面を基礎付ける神経系の計算処理にとって重要な役割を果たしている可能性がある。とりわけ、前庭系の信号は、(とりわけ重力場を前提とした)外的空間に対する身体の空間的表象を立ち上げることに寄与しているであろう。これらの前庭系の信号は、外的空間を移動している際に、全体的な身体表象を更新するうえでcriticalな役割を果たしていると思われる。したがって、前庭系のシステムは、自己位置・一人称視点に関する空間的なreferenceを符号化していると考えられる。
  • このレビューは、以上で述べたコンセプトに関する直接的および間接的な証拠を整理するとともに批判的な議論を展開するものである。これまで、BSCの問題と中枢前庭系の処理の問題はそれぞれ別個に扱われてきたが、このレビュー論文では、これらの興味深い複数の研究分野を統合することに関心がある。
  • このレビューは、三つのパートに分かれる。第一部では、簡単に前庭系のシステムを紹介し、BSCの空間的側面に対する前庭系の処理の役割について現在得られている知見を要約する。また、第一部は、今後の実証研究に対して開かれたままでいるいくつかの疑問についても言及する。第二部では、外部世界における身体的自己の空間的表象に関わる認知プロセス・知覚プロセスに対する前庭系の役割を示す実証データのレビューを行う。我々は、これらのself-relatedな処理は、BSCの空間的側面において発動するものと同様の機能メカニズムが使われていると考え、前庭系がBSCの空間的側面に貢献していることの間接的な証拠であることを指摘する。締めでもある第三部は、自己位置と一人称視点を基礎付ける前庭系処理の神経相関を扱う。ここでは、自己位置と一人称視点が、BSCに対して因果的に関わっている領域であるTPJ(temporoparietal junction)、そして三つの前庭系領野(PIVC、MST、VIP)からなる後部大脳皮質(posterior cortical)のネットワークによって符号化されているというアイデアを提案する。これらの領野は、協働して、BSCにとっての(複数感覚による)空間的なreferenceを構築するうえでの必要な計算を行う。我々は、こうした領域において知られている機能的な特性とともにBSCに与えるであろう役割について議論していく。合わせて、我々の仮説を支持する主張を揃え、BSCの空間的側面に関する前庭系の処理の今後の研究において、実証可能な研究の枠組みを提示する。
  • PART ONE: THE VESTIBULAR SYSTEM AND BODILY SELF-CONSCIOUSNESS: CURRENT KNOWLEDGE AND OPEN QUESTIONS
    ● THE VESTIBULAR SYSTEM
    + Peripheral system
    + Vestibular cortex
    ● VESTIBULAR CONTRIBUTIONS TO BODILY SELF-CONSCIOUSNESS
    + Theory
    + Clinical data
    + Experimental data
    ● CONCLUSION AND OPEN QUESTIONS
    PART TWO: VESTIBULAR CONTRIBUTIONS TO BODILY SELF-RELATED COGNITIVE AND PERCEPTUAL FUNCTION
    ● MENTAL SPATIAL TRANSFORMATION
    ● SELF-MOTION PERCEPTION
    ● BODY REPRESENTATION
    ● PART TWO: CONCLUSION
    PART THREE: VESTIBULAR CORTEX AND SPATIAL ASPECTS OF BODILY SELF-CONSCIOUSNESS
    ● PIVC
    ● MST
    ● VIP
    ● TPJ
    CONCLUSION