小鷹研究室の仕事

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影に引き寄せられる手(2015-17)

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手の位置感覚が、「手の影」(が位置する物理的な高さ)に引き寄せられることを示した一連の認知心理学的研究。具体的な実験内容は英語の原文(オープンアクセス[*01])あるいはプレスリリース[*B]を、また背景にある身体所有感の考え方については、学術系の研究発掘メディアである「academist journal」に寄稿したコラム[*C]に丁寧に記されているので、参考にされたい。ここでは、しかし、そのような研究の内側の喧騒から離れ、(研究の内側を内側たらしめる)研究の輪郭に目を向けてみたい。それは、例えば、『いったい、どうして、こんなにもありふれた素材を使った、そして(いかにも)ありふれているように思える現象が、よりによって、2017年の今になって、はじめて “発見” されることになったのか。』のようなかたちで発せられる問いのことである。
「影に引き寄せられる手」は、底面に設置された光源が手を照射し、その影が手を上から覆い隠すスクリーンに投影されることによってはじめて生じる。おなじみの(太陽の光がアスファルト面にはき出す)足元から長く伸びた身体の黒い影は、そのような心理的な誘引力を持たない 。 だから、「影に引き寄せられる手」は、ありふれた自然現象を、極めてありふれていないかたちで使用することによって、初めて見出されることになった。 それでは、なぜ、小鷹研究室は、そのような世界が反転しているような “まわりくどい” 光源空間を、わざわざこしらえることになったのか。
この「光源反転空間」は、金澤綾香の卒業研究において「影が自分の身体そのものと錯覚される」ために必要な光源環境を考えるなかで、半ば必然的に導き出されていった。「物理的な手をマスクする」という操作は、その物理的な手とは異なる手のイメージに身体所有感を投射するうえで基底的な条件を構成する(人は「二本の片手」という状態を受け入れることができない)。そして、この種の条件を満たすような手と影の空間的関係を考えるとき、「光源反転空間」の発想がひねり出されるのは時間の問題である。この意味で、「影に引き寄せられる手」は、1998年に”発見”されたラバーハンド・イリュージョンの中で、半ば予告されていたと考えるべきなのである。
繰り返すが、「影に引き寄せられる手」は、ラバーハンド・イリュージョンという強固なパラダイムの中で、そのパラダイムに翻弄される研究者のうちの “誰か” が、それほど遠くない未来に、それほどの苦労もなく、(巨視的に見れば “確率的” な過程のなかで)発見されてしかるべきものである(そして実際、小鷹研究室が、1998年から約20年後にそれを発見した)。だから、本当の問題はむしろ、なぜラバーハンド・イリュージョンのような、いかにも原始的とも思える錯覚が(1mAの電流すら必要とされない!!)、よりによって、1998年という(人間の歴史もおそらくは終盤戦に差しかかりつつある)世紀末にもなって、はじめて “発見” されることになったのか、という点に移される。そして、個人的には、ラバーハンド・イリュージョンの発見の源流には、20世紀最大の発見の一つであるコンピュータの登場(と、それに伴う計算機的世界観の内面化)がある、とそのように感じている。
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RESEARCH

PROJECT MEMBER

金澤綾香 小鷹研理

ACTIVE YEAR

2015-17

発表文献

  1. 小鷹研理:「主観世界を再デザインする「からだの錯覚」」、芸術工学への挑戦・人の心と体に挑む環境デザイン, pp.104-106, 岐阜新聞社, 2019.10
  2. Kenri Kodaka, Ayaka Kanazawa: “Innocent Body-Shadow Mimics Physical Body” i-Perception, 8(3), 2017.5, [OPEN-ACCESS]
  3. 金澤綾香・小鷹研理:「影による身体所有感の変調におけるモダリティーの効果」, 日本認知心理学会第14回大会, 広島大学, 2016.6(発表キャンセル) [PDF]
  4. 金澤綾香・小鷹研理:「垂直型投影環境における影と物体のインタラクション」, 第20回情報処理学会シンポジウム・インタラクション2016, 科学技術館, 2016.3 [PDF]
  5. Ayaka Kanazawa, Kenri Kodaka: “Anatomical similarity is mandatory to provide body ownership toward body-shadow“, Neuroscience 2015, Poster, Chicago, 2015.11
  6. 金澤綾香・小鷹研理:「影に引き寄せられる手」, 第13回日本認知心理学会大会, 東京大学, 2015.6 [PDF]

展示

  1. 研究室展示『からだは戦場だよ2017 とりかえしのつかないあそび』, やながせ倉庫・ビッカフェ, 2017.1.29-30 [LINK]
  2. 「さわってビックリ!見てフシギ? 人間の皮膚」, 名古屋市科学館・企画展, 2017.9.16-24 [LINK]

関連リンク

  1. 2017.05 「論文を発表しました」(研究室ブログ)
  2. 2017.05 「手の位置感覚が「手の影」に引き寄せられることを発見」(プレスリリース)
  3. 2017.06 「影に引き寄せられる手ー 「からだ」はどのように自覚されるのか」(academist journal)
  4. 2017.06  古谷利裕氏(画家・評論家)のブログの中で本研究に対する言及があります。 (偽日記)
  5. 2019.01 水野勝仁 「影のマスキングがバクルとサーフェイスとを引き剥がす」(連載第4回:サーフェイスから透かし見る)[MASSAGE]