小鷹研究室の仕事

WORKS一覧

蟹の錯覚(2018-)

MOVIE
TWITTER

Background
「蟹の錯覚」は, 手を交差することによって得られる錯覚の遊びの一つとして, 2018年1月に, 本研究室が開催した展示において考案されたものである. 左右の手を交差することで, 空間的な認知判断能力の正確性・効率性が減退することはよく知られている. 例えば, 交差状態にある左右の手に短い時間感覚の触覚刺激を与えると, 時間順序の判断(temporal order judgement)が反転しやすくなる(Yamamoto & Kitazawa,2001). また, こどもの遊びとしてもよく知られている, 「hand-reversal illusion」は, 視覚的に指示された指を動かそうとしても, 通常の手の状態のような素早い反応ができなくなる(Hong, Kang, & Tong, 2012). 以上の特性は, 人間の認知的な空間処理のシステムが, 右手が(体の正中線に対して)右側, 左手が左側にあるノーマルな状態に強く適合するかたちで構成されていることを示唆するものである.

「蟹の錯覚」も, 手を交差することで左右の混同を引き起こすという点において,「hand-reversal illusion」とよく似た錯覚体験である. 手順としては, 蟹のイラストの裏側に手を交差して通し, 指を前に折り返すようにして, おおよそイラストの蟹の肢にあたるところに合わせ, イラストを持ったまま指を動かす, というものである. また「蟹の錯覚」には複数人で行う「蟹と蟹の錯覚」がある. これは, 2対の蟹のイラストに対して, 対面した2人が4本の手を交錯させることで成立する. これらの「蟹の錯覚」を体験するにあたって大事なことは, どちらか一方の手を注視せず, 蟹のイラストと手の全体を視界に捉え, 指をわさわさと動かすことである. 蟹の錯覚の典型的な反応には「自分の手の動きが蟹の肢の動きのようにも感じる」や「どれが自分の手がわからない」といった, 自己主体感や身体所有感に関わるものがあげられる.
生の手をそのまま露出しながらにして, 自己感に影響を与える「蟹の錯覚」は, Rubber Hand Illusionなどの, 物理的な身体をマスクすることで引き起こされる一般的な錯覚パラダイムと比較して, 極めて特殊な位置付けの錯覚であるといえる. また, hand-reversal illusionと比較したときにも, 蟹の錯覚は, 「自分の手がイラストの蟹の一部に含まれる」ような感覚を伴うため, 自分と他人の区別に関わる表象(self-other representation)に関わる混同を, 直接的に扱うことが可能である.

蟹の錯覚・対戦
本研究室において考案された「蟹の錯覚」は、左右に交差された手の動きが自分のものでないように感じられる、手に対しての自己主体感が失われる身体の錯覚である。本作では、これを応用し、二人で行う対戦型のゲームへと展開した。 向かい合う二人のプレーヤーはゲーム体験時、お互いの手と左右の手を交差させ、蟹のドローイングの描かれた装置を保持し、装置によってそれぞれの手の帰属が視覚的に遮られた状態となる。こうして自他の手の認識が混同した状態で、点滅するランプに正確に反応する、得点先取型のゲームをプレーする。 体験者のリアクションには、「どれが自分の手かわからなくなる」「気持ち悪い」といったものがある。これらの反応は、錯覚がプレーヤー自身の手の自己感に影響及ぼすことを示唆しており、学術的なフェーズにおいて実験を計画する際の重要な材料となる。本作は、このような認知科学の分野における身体の錯覚の議論を、簡単かつ直接的な形で体感できる装置である。

CATEGORIES

ART, RESEARCH

PROJECT MEMBER

佐藤優太郎 石原由貴 小鷹研理

YEAR

2018-2020

AWARD

ノミネート作品|第25回学生CGコンテスト・エンターテインメント部門 [CGC ARCHIVE]

PAPER

  1. 佐藤優太郎・石原由貴・小鷹研理:「「蟹の錯覚」における主体感の変調」, 日本認知科学会第35回大会, 立命館大学, 2018.8(Organized Session:プロジェクション・サイエンスの深化と融合) [PDF]

EXHIBITION

  1. 大名古屋電脳博覧会, 名古屋市民ギャラリー矢田, 2019.9.19-23 [EXHIBITION]
  2. 研究室展示『からだは戦場だよ2018Δ ボディジェクト思考法』, やながせ倉庫・ビッカフェ, 2018.12.22-23 [美術手帖] [EXHIBITION]
  3. 研究室展示『からだは戦場だよ2018 人間は考えヌ頭部である』, やながせ倉庫・ビッカフェ, 2018.1.27-28 [WEB]