あなたは今、紙を半分に折っています (2020)
VIMEO
TEXT
「あなたは今、しています」において、極限まで削ぎ落とされた文字列は、鑑賞者を行為者へと仕立て上げ、いつしか「あなた」はその言葉の中に飲み込まれていく。その過程で散発的に発生した「行為の感覚」は、文字に記された物理的な手続きの結果、変形されゆく紙として具現化され、最終的には行為者の手から離れ、一定の物理空間を着々と占有していく。つまるところ、「あなたは今、しています」とは関数のことであり、その関数には、時間の経過とともに幾多もの「あなた」が代入され、その「あなた」と同じ量だけの「しています」が出力されていく。そのような計算空間として、「あなたは今、しています」は厳かに存在する。
しかし、なんにせよ、その「あなた」とは特定の筋骨格系を有する<物理>であり、扱われる紙は(それがいかに頼りない質感であれ)厚みと重さを持つ<物理>である。そして、「あなたは今、しています」の装置を通じて前景化するのは、関数的な淀みのないオペレーションなどでは決してなく、むしろ、それらの物理的制約によって突如切断された、「あなた」の行為の余韻の側にある。不特定多数の「あなた」と呼びかけられたはずのあなたからは、あなた自身に宿る<物理>の感覚こそが呼び起こされることなるだろう。そして、その種の、各人に固有の物理的残滓だけが、(例えば)淀みのないオペレーションにかまけて、無限ループに陥ってしまったフリーズ状態(ビューティフル・ドリーマー)を解除することができるのである(「あなたは今、半分に折っています」)。
だから、この作品は、時に「幻聴」として病態化した言葉を、この物理世界において確かな痕跡として成仏させるための、儀礼の空間でもある。
CATEGORIES
PROJECT MEMBER
宇佐美日苗 小鷹研理
YEAR
2020
AWARD
- 学科賞(宇佐美日苗「紙媒体におけるメタフィクション構造の展開に関する研究・制作」に対して)[imd.nagoya]
EXHIBITION
- 大名古屋電脳博覧会, 名古屋市民ギャラリー矢田, 2019.9.19-23 [EXHIBITION]