小鷹研究室の仕事

WORKS一覧

GIANT KILLING(2023)

CAPTION

濵田くんの卒業作品の肝は、からだの錯覚(専門的には「フルボディ錯覚」と呼ばれる手法)によって、サイズ感の異なる「自分」をただ体感するだけではなく、サイズ感の異なる「自分」の立場から、もともとのサイズ感の「自分」の存在感をも感知することにある。

具体的には、小人になったアバターから、(アバターにとっては巨人にあたる)もともとの自分の<巨大さ>を体感することが目指されている。そのために、二重のサイズに引き裂かれた巨人と小人の身体を、体験者自身の身体運動を通して、相互に往復するようなインタラクションが設計されている点が重要である。

こうしたコンセプトは、アバターの体験を仮想世界の中で閉ざしてしまうことなく、いかに現実に響くものとして設計できるかという、小鷹研究室に固有の問題意識(夢vs幽体離脱)を引き継いだものであるが、濵田作品の独自性は、この二重性の往復が、単なる視点の移動に留まらず、サイズ感の変化をも伴う点にある。

作品タイトルである《GIANT KILLING》という言葉は、正にこの二重性の体験を芯で捉えている。要するに、GIANT KILLINGによって、巨人を「キル」しているのは小人化した(虚の)自分であり、その小人によって、(地面に投げ出されるかたちで)「キル」される巨体は、もともとの(実の)自分なのである。

濵田作品で、強調すべき点を2つ挙げる。まずは「靴」として、足首から切り離された<足自己>の表象である。結論から言うと、足自己とは、人間の身体の中に埋め込まれた一種の「小人」のような存在ではないか。この意味で、足自己は、巨人の自分と小人の自分との二重化に一役買っている。

ついで重要なのは、この足自己を三人称呈示することによって増強される、「自分が(自分の)足元に存在している感覚」である。濵田くんが、研究室の展示において実施したアンケートでも約半数(25/52)が強く感じていると回答したこの体感は、3つの体験フェーズを通して、不気味な通低音を響かせている。

あらためて考えてみると、足回りほど、無意識が日常的に、常時オンラインでざわめている空間はない。散らかった部屋、段差のある市道、山中の獣道、、これらを歩いている時、視線や意識はほとんど足元に向けられていないにもかかわらず、足に宿っていると思しき主体は、華麗に次から次へと訪れる危機を回避する。

まるで、足のすぐ後方にカメラがあって、何者かによって、常時、足元周囲の状況がモニタされているかのように。濵田作品が明らかにしたのは、何よりも、この足自己に宿っている視点の普遍性にこそある。小鷹研究室がこれまでにこだわってきた「頭部自己」とは、空間的に対をなすとともに、明らかに異なる質感を持った足自己に秘められた可能性を、これから少しずつ紐解いていくだろう。

MOVIE
TWITTER

CATEGORIES

HMD, 幽体離脱, 身体変形

PROJECT MEMBER

濵田健吾 小鷹研理

YEAR

2022-2023

AWARD

  1. 2022年度 imd学科賞|名古屋市立大学芸術工学部情報環境デザイン学科 [LINK]

EXHIBITION

  1. 注文の多い「からだの錯覚」の研究室展 名古屋電映博2022,名古屋市青少年文化センター・アートピア, 2022.11.25-27 [EXHIBITION]