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去る3月25日は、あいにくの雨の中の卒業式でしたが、無事に研究室第13期の学生5人(修士:加賀美果歩、学部:原田和奈、肥後琴楓、牧野内柚香、宮本陽菜)の卒業を見届けることができました。恒例の屋外撮影はできなかったけれど、本当に晴れがましく気持ちの良い時間が流れていて、やっぱり卒業式はいいもんだ。もう入社式も終わっているであろうこのタイミングでなんなのだけれど、あらためて卒業おめでとう。これからますます楽しくなる人生を応援しています。

他に機会が無かったので、少しだけ小鷹研の一年の振り返りをしようと思う。2025年度になって、突如研究室にとっての最大のテーマに浮上してきたのが、頭の内部で光や音が感じられる頭内錯覚。簡単にいうと、頭への接触と身体外の音が同期すると音が頭内に取り込まれやすくなることを利用して、本来はあり得ない視覚的イベントを頭内に誘引していこうとするもの。着想は、2024年のXRAYHEAD GardenのVR学会デモのときに得られた(詳細は省く)。加賀美さんの修論のテーマがまさに直球でこれで(『聴触覚刺激の同期による音響マグネット効果に関する研究』)、2025年の前半のうちに修士研究としてXRAY環境で制作した2つの錯覚体験を、卒業研究としてHMD環境に展開したのが牧野内さんと原田さん。

卒業制作4作品のプレビュー

牧野内さんの『Quad Hemispheres』は、ネックスピーカを体験者の前側と後側にかけて、前後左右の4chで音を鳴らしていることが特徴で、これにより、脳内の4つの分割球のそれぞれの中で音が鳴っているような錯覚を強く誘発することができる。当初は、頭皮を直接に触ることにこだわっていたんだけど、この鋭利な仮想棒を脳内に差し入れるオペレーションを導入したことで、体験の自由度を一気に高めることができた。何よりおもしろかったのが、そのような(実は僕がこれまで避けてきた)ゲーム的な干渉方法でもなお、頭内の触覚的なリアリティーは少しも損なわれなかったばかりか、おそらくは感覚的に「真空」である頭内に特有の、異質な擬似触覚感が生起していたことだ。ここでも、頭部が身体全体の中で特別に異質な場所だということを再確認することができた。春から大学院に進む牧野内さんと、このシステムをまた一段上にのレベルへと拡張しようと考えている。ふさわしい場で発表できるように、これから数ヶ月が勝負だ。がんばろう。

原田さんの『Heavy Metal Head』(鉄頭)は、体験者の頭と(すぐ後ろに設置してある)スリットドラムを同時に叩くことで、自分の頭部が金属系の材質(転がる、振動する、硬くなる、、)へと変質する様を体験しようとするもの。これは、構想の段階からInstagramで受けるだろう(というか受けるものをつくろう)と話していたら、本当にすごい反応だった(現時点で650万再生)。原田さん、よかったね👍。

で、ここ数年つづけている(スライムハンド錯覚に端を発する)皮膚変形系の錯覚体験システムを引き継いだのが肥後さんで、今回は、前年の山口さんの『Buddha in XR』のシステムを基盤に、「ブッダの耳錯覚」と「自己溶接錯覚」を掛け算させることで、左右の耳が後方で溶接したような感覚のHMD体験(『BEHIND BUDDHA』)を設計してもらった。錯覚の瞬発的な強度でいうと、僕自身はこれが一番すごくって、耳たぶが床に貼り付けられた状態から、一気に剥がされる体験は、野菜となった自分自身が土から掘り起こされたような強烈な体感があって、何回やっても、身体がビクッとして「おうっ!」と声をあげてしまう。耳をほんのわずかに引いて離すだけで、全身レベルの横転のような運動錯覚を劇的に与えることができる、というのが、今回の制作を通じて得た僕たちの気づきで、この知見(耳への局所入力による全身感覚の増幅)は、今後の小鷹研の錯覚設計の中で一般化した方法論として間違いなく引き継がれていくはずだ。

最後、小鷹研として初めて「目玉」を扱う錯覚に挑戦したのが宮本さん。当初、ハーフミラー環境でやろうとしていたのがうまくいかず、あるとき、宮本さんがMediaPipe環境でのデモを見せてくれたことがあって、あぁ、これ全然いけるじゃんと思った。これまで、セルフィービューは、実際の鏡像と比べて歪んでいるから、身体所有感レベルには響かないと考えてきたが、よくよく考えたら、普段のZoomの打ち合わせでは、全く問題なく、カメラでモニタされた画面を自分の鏡像として捉えていることを思い出した。これらが主観的に等価であるとすると、人類は2020年代に入って、情報的に編集可能な魔法のミラーを手に入れたことになる。小鷹研の錯覚環境として、一つのディスプレイがあれば事足りてしまうMediaPipe環境を手に入れたことが画期的に重要で、とりわけ今後の錯覚展示では大々的に活用していくことになるだろう。まずは、何よりも、この点での貢献について強調しておきたい。

で、今回はじめて「目玉」を色々といじってみて、なんとも新鮮な感覚だった。「目玉」というものは、主観的には、もともと顔の中に埋め込まれた「部品」のようなもので、外的に取り外したり、引っ張ったりされることに対して野放図に開かれているらしい。「骨格としての身体」とも「皮膚としての身体」とも異なる第三の位相として(取り外しが可能な)「部品としての身体」の発見だ。宮本さんは卒業してしまうけれど、これからも小鷹研の活動に一緒に参加してもらうことになっている。これからの展開が楽しみだ。

加賀美さんの修士研究

最後に、博士前期課程を終えて修士号を取得した加賀美さんのこと。小鷹研での修士号は、意外と少なくて6人目(博士号は2人いるのにね)。就職と進学を天秤にかけて大学院に進学した学生には、その選択を後悔してほしくないし、対外的な実績もできるだけ積み重ねてほしいと思う。やる気のある学生であればなおさら。B4から比較的静かな2年を過ごした加賀美さんはM2となって、筆頭著者でUISTと、SIGGRAPH AsiaのDemoに2件ずつ。特に、後者は採択率20%を切る難関の中で2つのデモが採択され、(実は渡航がめちゃくちゃ危ぶまれていた)香港での3日間のデモを行い、XRプログラムの最高賞までとってしまった。

2025.12|SIGGRAPH Asia 2025(香港)でXR部門の最高賞を受賞!

さらにすごいのが、音源が触覚部位に引き寄せられる「音響マグネット」が頭部に特有の効果であることを、2種類の心理実験を通して調べ上げ、国内学会で発表した内容を国内の論文誌に投稿までしたことで、順調に言えば、4月には正式に再録の報告ができるはずだ。研究室として、聴触覚同期の頭部固有性を検証するプロジェクトをlaunchさせてから、まだせいぜい1年ちょっと、そのわずかな間に加賀美さんが成し遂げたことを考えてみるとすごすぎる(あとはAIxR Creative Award のフィナリスト、芸術工学会奨励賞も受賞)。研究でも制作でも一流の実績を残していることのすばらしさ👍👍

少し学術的なことを補足する。音と触覚が頭部において結びつきやすいことを考える上で、僕たちは、頭部が実際に「空想的なプロジェクションの場」として機能していることが関係しているのではと考えている。身近な例で言うと、心の中で音楽が流れている時、音がどこで鳴っているかというと、たいていは頭の上の方ですよね。心という抽象には、実際には、位置という具体が紐づけられており、それらが大いに活躍する場所は、決まって頭の上の方なのだ(それがなぜなのかと言うこと自体も面白い問いだ)。そして、この特異性は聴覚において最も極端に顕在化する、というのが僕たちの仮説だ。

こうした視点を踏まえるならば、仮想的なイベントを上演するうえで、舞台装置を備えた頭内こそが最も優れた(没入感の高い)劇場空間であるという結論に行き当たるだろう。加賀美さんの研究は、こうした未だ気づかれていない「仮想世界の空間原理」に肉薄している。こんなところでやめてしまうわけにはいかない。

Instagram元年

そんなわけで、5人とも、小鷹研の歩みの中で、確かな足跡を残してくれた。そう、「足跡」というと、この1月にInstagramを始めたことで、学生の作品を小鷹研究室の錯覚プロジェクトの中で、ナンバリングされた数字と共に明確に「刻む」という意識が芽生えた。

わずか3ヶ月でフォロワー数は2.5万を超え、毎日、各国のアカウントからさまざまな反応が届いている。僕が突然「飽きた!」と言って投げ出さない限り、今後もフォロワー数は成長していくだろう。今後、小鷹研究室に参加する学生には、各人の仕事を、この場に明確に「刻む」ことが、強いモチベーションになるといいな、と思う。そのためにも、せっかく始めたreshapedbodyの運動を、もっともっと大きなうねりにしていきたい。さらにいえば、僕にとっても、学生の一つ一つの錯覚デモについて、今後は、このInstagramという場で、10秒動画としてどのように切り出すか、という視点を込みで、付き合っていくことになるだろう。あらゆる錯覚には、いかにして「事件を設計するか」という視点が包含される、ということだ。

実は、肥後さん(095)と原田さん(096)のリールは、共に600万以上の再生を記録し、001〜100の100種類の10秒動画シリーズ(minimal reshapedbody)の中で、いずれも上位5番以内に入っている。本人も喜んでくれていると思う。この世界の片隅に?、こんな意味不明なものが許容される場がちゃんとあるんだから。いつの日か「私の仕事はここにある」ことが自慢となるような、そんな世界的な場へとreshapedbodyを育てていきたい。その最初のスイッチが2026年の1月に突如押されて、その初期の熱狂に全員で立ち会えたという意味でも、記憶に残る第13期であった。

2026年度の小鷹研

加賀美さんは、香港ではじめて進学の意思を表明し、その後、JST SPRINGの助成が無事に決まったことで、4月から博士後期課程にすすむことになった。そして卒業した4人のうち、牧野内さんが博士前期課程にすすむ。現在、D2の高橋さん(DC1)と合わせて、大学院生は3人在籍している。何かを濃密にすすめていくには、ちょうどいいくらいの人数だ。しかしだ。来年の4年生は実は1人しかいない。配属された3人のうち2人が留学!しているからだ。ぎゃぁ〜ん。(留学から大きくなって戻ってくることを楽しみにしております)

大きな展示とかも控えているからどうしようかなと思いつつも、まぁ、なんとかなるだろうし、なんとかなる範囲の規模でやっていこうと思う。

なお、今年は予算の切れ目でどうなることかと思っていたが、基盤Bの分担(4年、NTTの横坂拓巳さんが代表)、電気通信普及財団(3年)、中山隼雄科学技術文化財団(最大で2年)の3つの採択をいただき、博士の2人も給料ありなので、これから数年は、なんとか小鷹研は安泰でやっていけそうです。他大学から大学院で小鷹研への進学を希望する学生は、まず小鷹にメールなどで連絡を入れてみてください。

そんなわけで、本年度の小鷹研究室もまたよろしくお願いします。

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